ILLUMINATIONS/PLUTO OUT
1. Shaman`s Fingertip 10:02
2. Plateaux Early Spring 7:34
3. Wild Lilies 5:58
4. Tokyo 5:31
5. Rainbow Canopy#4 8:31
6. Utsuho#2 10:34
Total 48:10
ame006
Price : 2,800円(税抜き)
format : CD
release date : 10. 1. 2006
label: ame-ambient
buy: ame-ambient
artwork by Kowji Miyabe
photography by unknown,
taken in Canada in 19th century
イリュミナシオン。暗闇に瞬く燐光の群れ。あるいは煌めくような啓示。
またはフランスの詩人アルチュール・ランボオの未完の詩集のタイトル。ランボオは、キリスト教や道徳などすべてのヨーロッパ精神に飽き果てて、灼熱のアフリカに渡った。彼はそこで、砂漠の武器商人となった。キャラバンを編成して、砂漠を横切る詩人。
そして冥王星。
冥王星は、太陽系を廻るもっとも外側に位置する惑星。その軌道は安定せず、ひとつ内側の海王星の軌道を横切ることさえある。それはまるで太陽の重力との永遠の闘争をしているかのようだ。冥王星は、太陽系というひとつの系列、システムから逃れ、大いなる自由の荒野、外宇宙へ飛び出そうとしているかのようだ。
それは、宇宙におけるアフリカのような場所。そう、宇宙の、灼熱の、アフリカへ。
☆
われわれは、それぞれがひとつの冥王星である。
僕たちの生命が、そうなのだ。
命とは、飼い馴らされることのない野性の馬のようだ。広大な平原にばらまかれた野性の馬たち。美しい群れ。強靭な魂。そして、野性の霊感。研ぎ澄まされた霊感。
三万年もの古代、ヨーロッパの洞窟壁画に描かれたシャーマンたちの絵は、下半身が人間、上半身が野性の獣の姿で描かれている。シャーマンたちは変身し、動物になるのだ。みなぎる野性をたぐりよせて。
あらゆる宗教がまだなかった時代、始源の霊感はこのようにしてあった。人間を野性の動物で充填するものとして。
そして、野性の馬の、みなぎる生命の霊感として。
☆
生命は、系列ではない。
それは平原にばらまかれた野性の群れだ。灼熱の砂漠のライオン、ユーラシアの青き狼、そして闇のなかを疾走する鹿の群れ。アジアの高原を駆け抜ける黒い馬、白い馬、黒い馬。山脈をなぞるバイソン。砂塵を舞い上げる恐るべきバッファロー。気狂いバッファロー。夜をめぐる姿なきコヨーテの群れ。盗賊の犬たち。イーグルの急降下。そしてふたたび野性の馬たち。駆けてゆく一群。
☆
感じるだろうか。夜の鹿の群れの疾走。その優雅で迅速な脚取り。眼。光る眼。
夜の火のもとでわれわれを取りまく漆黒の暗闇に耳を澄ます。聴こえるか、夜の鹿たちの息遣い。感じるか、鹿の脚が土を蹴る力。誇り高い雄鹿の角が、灌木の葉を揺らす音。疾走する脚ども。多数の眼が、この焚き火を一瞥する。そして、一瞬にしてわれわれを置き去りにする速度。
野性とは、つまりその速度のことである。速度が遅ければ、からめとられてしまう。狩猟者の銃、カウボウイの縄、調査官の檻。そこでわれわれ野性の者たちは調査され、腑分けされ、区分される。分類され、組織され、命名される。あらゆる未曾有のもの、あらゆる命名しがたいもの、とらえられない微細な躍動、美しいニュアンス、異邦者の危険な微笑、闇に瞬く燐光の数々、名の知れぬ精霊たち、亡霊たち、海に棲み、敵対者に悠然と姿を現す白鯨、あらゆる響き、すべての響き、底知れぬ神秘、宇宙の一撃、冥王星。それらすべてが表記され、登録され、納税される。
☆
冥王星の運動は予期しえない。それは予測不能である。占星術師は冥王星を解釈できないし、解釈しようとしたまさにその瞬間、それは軌道を変更する。逃亡し、白鯨のように姿を消す。煌めく海は、捕獲者には永遠の謎である。
われわれは、野性の惑星としての冥王星である。
野性の惑星は、とらえられない。それは古代ギリシアの冥界の神プルートの名で呼ばれるが、じつはそれは神とすら呼び得ない何者かである。神であるならば、それはすでに速度が遅すぎるのだ。だが速度がじゅうぶんに速ければ、それは命名不能であり、つねに変容を続けるプロセスそのものであり、美しい旋律と強度を持った音楽の響きである。沈黙すら、響くのだ。静寂すら、満ちあふれるのだ。精霊が召喚され、ケルトの天使が喇叭を鳴らす。ディオニュソスの深い黙想と、現前する神秘。
シャーマンの洞窟の秘儀。燃え上がる松明の炎のもとで描かれた野性の動物たちにシャーマンは変容する。これは比喩ではない。シャーマンたちは、実際に、動物になるのである。そうして動物になったシャーマンは、荒野を恐るべき速度で駆け抜ける。野性の馬の速度で。野性馬の群れとともに。一陣のモンスーンの風が吹くと、馬たちは南へたてがみを振りかざす。マシンよりも正確なギャロップ。夕陽が黄金色にその疾走を照らし、砂塵が大地から濛々と立ちのぼる。
☆
大地を大股で闊歩する者たちの一群。神よりも輪廻転生よりも速やかに疾走し、来たるべき未来、来たるべき子供ら、来たるべき花々と愛情を刻印する。
平原を駆け抜ける野性の馬のように、ただ現在である霊感。野性の馬たちは何も信じない。シャーマンたちは何も信じない。そして、驚くべき強靭な現在への肯定の意志。来世もまた砂塵を舞い上げながら疾走するであろう野性の馬たちの誇らかな脚どり。意志に貫かれた彼の眼。彼の眼。あらゆる自己憐憫、あらゆる宗教、あらゆる神々は、狩猟者の銃だ。だから、速度をあげて、ひたすら広大な平原を、矢のごとく。
さらに遠く。もっと遠く。
狩猟者の姿が見えなくなるまで。
2005年11月7日、午後5時、八ヶ岳。